ミツル醤油 城慶典さん

城慶典さん

80年続くミツル醤油

巨大な杉樽が並ぶ

熟成中!

丹精こめて作られた醬油たち

ホットスポット名称:
ミツル醤油 城慶典さん
住所:
糸島市
タイトル:
自社醸造で生まれる味の多様性
レポート内容:

醬油は1960年頃に各県ごとに醸造組合ができ、仕込みは組合の協業工場で作られるようになった。今もこの状態は続いており、自社醸造を行っている所はわずかだ。糸島市二丈にある小さな醸造元ミツル醤油も、1966年に自社醸造をやめ、協業工場から醬油を買い、味付けと火入れは自社で行うという方式に転換した。今、このミツル醤油が自社醸造を復活させ醬油業界で話題になっている。

城慶典さんは、「ぼくが後を継いだら仕込みを復活させたかった」と言う。高校生の時に自社醸造を復活させると決め、東京農業大学醸造科に進んだ。春休みのたびに全国各地の蔵元で修業をしたそうだ。2009年に糸島にもどり、2010年から自分のところで仕込みを開始した。「自社醸造に戻したいと言った時に、おやじが思うようにやれと言って理解してくれた。そもそも設備はない、資金もいるわけですよ。しかも仕込んでから商品になって代金を回収できるのは1年後とか2年後。それでも了解してくれたことは大きいです」非常に苦労はしたものの、資金もなんとか用意ができ、巨大な桶を据え付け、物置をリフォームしてこうじ部屋にした。

「組合の工場に出すと脱脂加工大豆が使われていて薬剤をかけて油を取ります。それに大豆の9割、小麦の8割が海外からの輸入です。糸島の物だけを使って、地の物としての醤油を作りたかったんです」と慶典さん。脱脂加工大豆とは、大豆から油を取り除いたもの。つまり大豆油を搾った残滓なわけだが、一般的な醬油はこれで濃いものを作り、薄めて大量に作られている。原料コストが安く、短時間でうまみ成分の高いものが作れるため、流通している醬油のほとんどが、脱脂加工大豆8割、丸大豆2割が原料になっている。

糸島の米や麦で作った麹に糸島の大豆で作った醬油は、どんな味がするのだろう?「味比べをしてみてください」と2011年ものと2012年ものを味見させていただいた。まろやかさにびっくり!ちょっと言葉では説明できない複雑なこくがあり本当に美味しい!しかも仕込んだ年で微妙に味がことなる。慶典さんは「仕込んだ年で味が違うことを楽しんでほしい」という。流通業界ではいつどこで食べても同じ味であることが求められる。そんな味の均一化に慣れきってしまうと、わたしたちの舌は多様な味覚を忘れてしまうのではないだろうか。その年の温度、湿度、米や麦の出来具合、菌の多様性で味が変わるということは、実は素晴らしいこと。わたしたちの食文化に豊かな多様性を与えてくれる。

慶典さんは、友人の農家に頼んで無農薬の小麦を作ってもらっている。そして麹を作り、じっくり時間をかけて熟成させてゆく。毎年、巨大な桶2本分を仕込み、しぼるのに2週間もかかる。しかし、もともとはどこの醤油もこんなふうにして醸造していた。そろそろ、本来の姿に戻していく時代だ。「発酵している時、人が近付くと音が大きくなるんです。不思議ですよね」と愛おしそうに笑う慶典さん。可愛がると美味しくなってくれる。食べ物は生き物だ。

2015年7月29日 坂田